ゆうべのスープ、みごとなスープ
みぃぃごとぉなスゥゥゥプ!
みぃぃごとぉなスゥゥゥプ!
ゆぅぅぅべのスゥゥゥプゥ!
みごとなみごとなスープ!」
「みごとなスープ!
さかなもおにくもサラダもいらぬ!
二ペンスほどのみごとなスープ
でだれもがすべてをなげだしましょう!
みごとなスープが一ペンス!
みぃぃごとぉなスゥゥゥプ!
みぃぃごとぉなスゥゥゥプ!
ゆぅぅぅべのスゥゥゥプゥ!
みごとなみぃごとなスゥゥゥゥプ!」
* * * * *
「さあ、サビをもう一度!」とグリフォンがさけんで、にせウミガメがちょうどそれをくりかえしはじめたとき、遠くのほうで「裁判がはじまるぞ!」とさけびがきこえました。
「おいで!」とグリフォンは、アリスの手をひいて、歌の終わりをまたないで、かけだしました。
「なんの裁判なの?」アリスはきれぎれの息でききました。でもグリフォンは「おいで!」と言うだけでもっとはやく走りだして、にせウミガメのかなしそうな声は、背中からのそよ風にのって、ますますかすかにきこえてくるだけとなりました:― ―
「ゆぅぅぅべのスゥゥゥプゥ
みごとなみごとなスープ!」
11. タルトをぬすんだのはだれ?
ハートの王さまと女王さまは、ついたときには玉座にすわっていました。そのまわりには、大群衆が集まっています― ―いろんな小さな鳥や動物、さらにはトランプひとそろい。ジャックが王さまたちの前でくさりにつながれていて、その両側に兵隊さんがついています。そして王さまの近くには、白うさぎがいて、片手にラッパ、片手に羊皮紙(ようひし)のまきものをもっています。法廷のまん中にはテーブルがあって、タルトののったおっきなお皿がありました。すごくおいしそうだったので、アリスは見ているだけでおなかがすいてきました― ―「はやいとこ裁判をすませて、おやつをくばってくれないかな!」でもこれはありそうになかったので、ひまつぶしにアリスはまわりのものをなにもかも見ていきました。
裁判所にくるのははじめてでしたが、本でよんだことはあったので、ほとんどなんでも名前がわかってアリスはとてもとくいでした。「あれが判事ね、おっきなかつらをかぶってるもの」
ちなみにその判事というのは、王さまでした。そしてかつらの上から王冠をかぶっていたので(どんなぐあいだったか見たければ、この本の最初にある口絵を見てね)、あまり落ち着かなそうで、それがよくなりそうなようすもありませんでした。
「そしてあれば陪審席(ばいしんせき)。そしてそこにいる十二匹の生き物だけど」(生き物っていうしかなかったんだ、動物もいれば鳥もいたから)「あれがたぶん、陪審員(ばいしんいん)ね」アリスはこの最後のことばを、二三回くりかえしました。ちょっと得意だったのです。だって、こんなに小さくてこんなことばの意味をぜんぶ知ってるなんて、あんまりいないはずだと思ったからで、それはそのとおりでした。でも、ただの「陪審(ばいしん)」でもぜんぜんかまわなかったのですけどね。
陪審員(ばいしんいん)12人たちは、みんな石板にいそがしくなにか書きつけています。「あれはなにをしてるの? 裁判がはじまってないんだから、なにも書くことないはずでしょう」とアリスはグリフォンにささやきました。
「自分の名前を書いてんの。裁判が終わるまでにわすれちゃうとこわいと思ってるんだよ」とグリフォンがささやきかえします。
「馬鹿(ばか)な連中!」とアリスはおっきなけいべつするような声をあげましたが、すぐにやめました。白うさぎが「せいしゅくに!」とさけんだからです。王さまはめがねをかけて心配そうにあたりを見まわし、だれがしゃべっているのかを見ようとします。
アリスは、陪審員(ばいしんいん)たちが「馬鹿(ばか)な連中!」と書きとめたのがわかりました。まるでそのかたごしに見ているかのようです。なかの一人が「馬鹿(ばか)」と書けなくて、となりにきいているのもわかりました。「裁判が終わるまでに、あの石板はまるでわけわからなくなるだろうなあ」とアリスは思いました。
陪審員(ばいしんいん)たちの一人が、きしる石筆を使っていました。もちろんアリスは、これががまんできなかったので、法廷をぐるっとまわってそいつのうしろにくると、じきにすきを見つけて、その石筆をとりあげてしまいました。とってもすばやくやったので、かわいそうな陪審員(ばいしんいん)さん(それはあのトカゲのビルでした)はいったいなにがおきたのか、さっぱりわかりませんでした。そこらじゅうをさがしまわったあげくに、その日はずっと、指で書くしかありませんで、これはまったくなんの役にもたちません。石板になんのしるしものこさなかったからです。
「告知官(こくちかん)、訴状(そじょう)を読み上げるがよい!」と王さま。
これをうけて、白うさぎはラッパを三回ふきならすと、羊皮紙(ようひし)のまきものをひらいて、こんなものをよみあげました:
* * * * *
「ハートの女王、タルトをつくる
ある夏の日に
ハートのジャック、タルトを盗み
一つのこらずかっさらう!」
* * * * *
「では判決をまとめるがよい」と王さまは陪審に言いました。
「まだです、まだです!」うさぎがあわてて止めます。「それより先に、たくさんやることがあります!」
「最初の証人をよべ」と王さま。そして白うさぎがラッパを三回ふきならして、さけびました。「証人だい一号!」
最初の証人は、あの帽子屋さんでした。片手にお茶わん、片手にバターパンをもっています。「国王陛下、こんなものをもってきやして、すまんこってす。でもよばれたときに、まだお茶がすんでなかったもんでして」
「すんでいたはずだが」と王さま。「いつからはじめた?」
帽子屋さんは三月うさぎのほうを見ました。三月うさぎは、ヤマネとうでをくんで、あとからついてきたのです。「たしか三月の十四日だった、と思うけど」
「十五だよ」と三月うさぎ。
「十六」とヤマネ。
「書いておけ」と王さまは陪審にいいました。そして陪審員は、ねっしんに、石板に日づけを三つとも書いて、それからそれを足して、そのこたえをこんどはシリングとペンスになおします。
「帽子をとりなさい」と王さまが帽子屋さんにもうします。
「こいつぁあっしのもんじゃございませんで」と帽子屋さん。
「ぬすんだな!」と王さまはさけび、陪審のほうを見ると、みんなすぐにそのじじつをメモします。
「こいつぁ売りものでさぁ。自分の帽子なんかもってませんや。なんせ帽子屋、ですからね」と帽子屋さんは説明します。
ここで女王さまがめがねをかけて、帽子屋さんをじっとながめました。ながめられた帽子屋さんは、青ざめてヒクヒクみぶるいしてます。
「証言をするがよい。それと、そうビクビクするな、さもないとこの場で処刑させるぞ」
こういわれても、証人はちっともげんきになりません。あいかわらずもじもじしながら、おどおどと女王さまのほうを見て、混乱しすぎてバターパンのかわりにお茶わんのほうをかじってしまいました。
ちょうどこのとき、アリスはとっても変な気分になりました。いったいなんだろうとずいぶん首をかしげたのですが、やがてなんだかわかりました。またおっきくなりだしてるのです。最初は、立ってここを出ようかと思いました。でもやっぱり考え直して、い場所があるうちはここにいようと決めました。
「そんなぎゅうぎゅう押すなよぅ。息ができないよぅ」ととなりにすわってたヤマネがいいました。
「しょうがないでしょう。おっきくなってるんだから」とアリスはとってもよわよわしくいいました。
「なにもこんなところでおっきくならなくても」とヤマネ。
「バカなこといわないでよ。あなただって、おっきくそだってるんですからね」アリスはもうちょっと強くいいました。
「うん、でもぼくはふつうにおっきくなってるんだからね。そんなとんでもないはやさじゃないよ」そしてヤマネは、プンプン怒って立ちあがると、法廷をよこぎって反対側にいってしまいました。
この間ずっと、女王さまは帽子屋を見つめるのをやめませんで、ヤマネが法廷をよこぎったと同時に廷吏の一人に申します。「前回のコンサートの歌い手一覧をもってまいれ!」これをきいて、ひさんな帽子屋さんはガタガタふるえすぎて、くつが両方ともゆすりぬげてしまいました。
「おまえの証言をのべよ」と王さまは怒ったようにいいます。「さもないと、ビクビクしているかにかんけいなく、おまえを処刑させるぞ」
「あっしは貧しいものでして、国王陛下」と帽子屋さんはふるえる声できりだしました。「― ―そしてお茶もまだで― ―もう一週間ほどもなんですが― ―んでもって、バターパンもこんな心もとなくなってきて― ―それでキラキラの木が― ―」
「キラキラのなんともうした?」と王さま。
「ですから木からはじまったんでして」と帽子屋さんはこたえます。
「キラキラがキではじまっておるのはとうぜんであろうが!」と王さまはきびしく申しわたします。「わしをそこまでうつけ者と思うか! つづけよ!」
「あっしぁ貧しいもんでして」と帽子屋さんはつづけます。「でもって、それからはなんでもキラキラで― ―でも三月うさぎが言いますに― ―」
「言ってない!」と三月うさぎがあわててわりこみます。
「言った!」と帽子屋さん。
「否認します!」と三月うさぎ。
「否認しておる。その部分は除外するように」と王さま。
「まあとにかく、ヤマネが言いまして― ―」と帽子屋さんはつづけてから、不安そうに首をまわして、ヤマネも否認するかどうか心配そうにながめました。が、ヤマネはぐっすりねむっていたので、なにも否認しませんでした。
「それから、あっしはもっとバターパンを切って― ―」と帽子屋さん。
「でもヤマネはいったいなんと言ったんですか?」と陪審の一人がききました。
「それは思い出せません」と帽子屋さん。
「なんとしても思いだすのじゃ。さもないと処刑するぞ」と王さま。
みじめな帽子屋さんは、お茶わんとバターパンをおとして、片ひざをついちゃいました。「あっしは貧しいんです、国王陛下」と帽子屋さんは口を開きます。
「はつげんのなかみは、たしかに貧しいな」と王さま。
ここでモルモットが一匹、かんせいをあげて、すぐに廷吏(ていり)に鎮圧(ちんあつ)されました。(これはちょっとむずかしいことばなので、どういうふうにやったか説明しようね。おっきなずだぶくろがあって、口にひもがついていてしばれるようになってるんだけど、モルモットはそこに頭からおしこまれて、そしてみんなでその上にすわっちゃうんだ)。
「いまのは見られてよかったな。よく新聞で、裁判の終わりに『拍手があがりかけたが、廷吏(ていり)によってそくざに鎮圧(ちんあつ)された』ってかいてあるのをよく見かけるけれど、いままでなんのことかぜんぜんわからなかったもん」とアリスは思いました。
「それで知ってることのすべてなら、下がってよいぞ」と王さまがつづけました。
「これ以上はさがれませんや、うしろに柵があるもんで」と帽子屋さん。
「ではすわるがよい」と王さまがこたえます。
ここでモルモットがもう一匹かんせいをあげて、鎮圧(ちんあつ)されました。
「わーい、あれでモルモットはおしまいね。これでちょっとましになるかな」とアリスは思いました。